前回までのアストルⅤは!? (ババーン) 少女の願いはかなえた! ピンクが誕生し、2人となったアストルⅤ! 魔物の凶暴化に不穏な空気を感じつつ、戦士は旅を再開する! しかしレッドはピンクの手を握ろうとは決してしなかった!! ガートラント城下町。
「どうして早歩きなのかしら」
短く刈り込んだ金髪を揺らしながら、ロコは無骨だが精練な町並みを眺める。硬質さはあるが温かみを失わない建造物。そこかしこでくべてある薪とそこへ集まる人々。メギストリスとはまた異なる活気があり、列車疲れを癒してくれる気がした。
「わたし、ガートラントってはじめてなの」
胸元をはだけたベストを羽織り、豹柄の腰巻はオーガの町に馴染んでいる。列車に飛び乗ったのが夕刻だったものだから、夜明けの澄んだ空気が首元を抜けた。故郷の風だろう。オーガという種族の肌が心地よさ感じた。
「だから、もう少し足並みをそろえてくれてもいいんじゃないかしら?」
腰に手をあて、むくれるロコ。この距離感をどうしてくれようか。声の先には赤髪の羽男。
「・・・」
まわりにエルフが少ないせいかぺりめにの戦闘装束は目立っていた。恨みがましくにらんでくる。
「連れだと思われるだろう。話しかけてくるなよ」
そう言って口を尖らせるぺりめには、さらに歩みを速めた。
どうしてくれようか、このかたくなな男を。ロコも追いすがるように足をまわした。どうしてもこの微妙な距離が埋まらない。しかし幸い、その距離は離れすぎることはない。
「あら、わたしは〈連れ〉だと思っているけれど?」
「テメエが勝手についてくるだけだ。テメエの針はテメエで決めやがれ」
「悪態をついてもだめよ。わたしはわたしの針で決めて、あなたに同行したいと思っているんだから」
「くそ・・・苦手だぜ」
ぽつりとつぶやいたが、ロコにはしっかりと聞こえていた。とはいえ。
「ねえ、レッド。ガートラントまできて、どこへ向かっているの?」
あてのない旅。というわけではないのだろう。ガートラントへわざわざ列車でくるくらいだ。何か目的があってここへ出向いたはずなのだ。
「さあな」
しかしぺりめにの行動はそれを体現していなかった。目線はせわしなく動き、何かを観察しているような。
違う。何かを探しているような。
「ここからは別行動だ。絶対に近寄るんじゃねえぞ」
「なあ! おねえちゃんたちって、できるひと?」
ぺりめにが道行くオーガに声をかけていたときだった。無邪気な声は足元から聞こえてくる。
「なあ! おねえちゃん、おいらと勝負しないか!?」
さて、待ちあぐねているといえばそうだ。ぺりめにの話はまだ続きそうだ。足元の刺すような視線に、応えてみるかどうするか。虫の知らせだが厄介なできごとに巻き込まれそうな気もしていた。
「なあってば! おねえちゃん! ・・・もしかして、耳が残念なひとなのか?」
「心外ね。わたしは胎児の頃から1キロ先の草の音を聞き分けたわ」
応えてしまった。
視線を向けると、マダラのこしみの一丁だけを身に着けた男児がいた。種族はなんだろうか、ボリューミィな髪に隠れて角はみえない。オーガではないのか。背中に羽もヒレもなければ厚い毛並でもなかった。ドワーフだろうか。目つきは悪い。そして、こしみの一丁なので上半身は素っ裸である。
「ああ・・・アタマが残念なひとなのか」
期待していた反応が得られなかったからか。無邪気な少年は肩を落として去ろうとする。ちょっと待て。ぐわ、とアタマをつかんだ。
「待ちなさい少年。奔放すぎる発言を改めるなら、きちんと応えてあげるわ」
これでは幼子をいじめる陰湿な悪漢だ。いや、悪女か。どちらにしろイメージが悪すぎた。教会孤児の底力をみせるときだ。
「そっか! だいじょうぶだよおねえちゃん! 性格が残念でも、腕っ節が強ければおいらと勝負できるよ!」
「わたしは聖母わたしは聖母わたしは聖母わたしは聖母わたしは聖母わたしは聖母わたしは聖母・・・」
ロコのこめかみで血管が大きく拍動していた。いかんいかん。相手は子供だ。
「おいらさ、困ってるオーガは見過ごせないんだよね。正義感っていうの? そういうのに満ち溢れてんだ!」
言って胸をそらす少年。
「困っているオーガ?」
「そうだよ! 困っているオーガはたくさんいるんだ! 最近、ここら辺ではとくにね・・・」
「もしそれがほんとうなら、何か事件が起こっているのかしら」
力のあるものとしては、捨て置けない発言であった。
少年の口の端がわずかに動いた。
「じゃあおねえちゃん。勝負だよ。おいらと、狩人のほら穴まで競争するんだ」
「狩人のほら穴? そんな辺鄙な場所でなにが・・・」
しかしロコの疑問はさえぎられた。
「そこで事件が起こっているなら、おねえちゃんたちは見過ごせないでしょう?」
そう言って、少年は破顔した。
「洞窟には野生が多すぎるんだよ」
「野生?」
ため息をつきながらぺりめには言った。
「魔物たちの群棲地ってことだ」
狩人のほら穴への道中。ガートラント領からギルザット地方へ抜けた頃。
草地を駆けながらも、恨みがましい口調がロコを刺す。
「そもそも光が届きにくいんだ。つまり闇が生まれるところなんだよ洞窟ってのは。ひととの共生に慣れていねえ魔物がわんさといる」
少年が勢いよく町を飛び出してから、戻ってきたぺりめにに事情を話した。
「そりゃ戯言だ。まさか信じるわけじゃないだろう?」と、一蹴されてしまった。
それでも本当に困っているひとがいるならと説得すると、渋々といった様子で同行を許した。
「でも生活圏に脅威が存在するのなら、それは排除するべきでしょう?」
駆け抜ける草花が次第に深くなってゆく。駆け抜けるというよりは、かき分けるという印象だ。入り江の集落を越えた。狩人のほら穴までもうしばらくだ。
「へっ、簡単に排除できるものならな・・・」
旅人が開拓していった土地にはいくらかの柵で仕切られている場所がある。統括している種族の長が定めた危険域への堤防がわりだ。腕に覚えのある者だけが進めるその地域は、ギルザットには多く存在する。警戒せねばならない。いつ茂みから兇悪な魔物が躍り出てくるかわからないのだ。
「わたしたちにはそれを排除できる力があるわ。ほら穴で、本当に助けがくるのを待っているひとがいるかもしれないのよ。聞いておいて、知らないふりはできない。あなたもそうでしょう?」
振り返り見ると、半歩後ろでぺりめにはむくれていた。
「でなければ、ついてきていないものね」
「へっ、おれもこの先へちょっくら用があんだよ。勘違いしてんじゃあねえ!」
ひとも寄り付かないこんな辺境へ、何の用があるというのか。
「ふふっ」
少しばかり、距離が近づいた気もする。目元をほころばせると同時に、ぺりめにが緊張した。
「・・・っ!? おい、ざわつくぜ」
「・・・っ!?」
そして、
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
はげしい雄叫びがしたと思ったら、ロコの体は宙へ投げ出されていた。
「ちぃっ! ・・・チェンジ!」
ぺりめにが赤を纏う姿を視界の端でとらえた。
逡巡する。着地は難しい。吹き飛ばされる直前にツメで足をやられた。もし駆けてくるレッドがこの体を受け止めたとしても、敵の懐へは飛び込めない。防御呪文だ。それ以外の選択肢はない。意識を切らしてはいけない。呪文の効力は術者の精神状態に左右される。ここで事切れるわけにはならない。
「ス・・・」
詠唱に入ってすぐ、浮力が消える。
「おい!だいじょうぶかよ!?」
ロコを静かにおろすと、レッドは反転し一気に飛び込む。ここで様子見は無用。尻込みしてはいけない。詠唱も間に合う。
「・・・カ・・・ラ・・・」
レッドに青白い膜がはりつく。弾丸のごとく突っ込んだレッドの拳が光り、必殺の連打が繰り出されようとしたところで、
「おおおおおおおおああああああああ!」
「グルアアアアアアアアアアアアアッ!」
ロコの意識は断絶した。
【次回予告】 傷んだピンク! 床に臥す姿にレッドは何を思う!? 脅威は、まだそこに揺蕩っている! 受難の果てに新しい光が輝くのか!? 次回、おたすけ戦隊アストルⅤ!「ふへへ、あたしイエローだよぉう」 アストルティアの平和は、アストルⅤにお任せ! [1回]
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